子どもの安全を守ろう

(5)交通安全教育

子どもを事故から守るさまざまな活動を紹介する「ひろしま交通事故防止キャンペーン」。第5回のテーマは「交通安全教育」です。呉市の広交通安全協会は広警察署などと連携し、小学校入学前後の幼児や児童を中心とした交通安全指導に力を入れ、成果を挙げています。その活動内容について協会長の嵜本(さきもと)林之助さんらに聞きました。

広交通安全協会の取り組み

広警察署交通課交通総務係長 宇佐美 方啓さん
危険を自ら察知して、回避できる力をどう養うかが大切です。
そのために交通安全教室では、実際の路上や模擬的なコースで行うなど、リアルな指導にこだわっています。
広交通安全協会事務局長 村岡 三義さん
協会が行う全ての活動は事務局で企画運営しています。
より効果的な啓発や指導を行うために呉や東広島、竹原など近隣地域の交通安全協会との連携も重視したいですね。
広交通安全協会会長 嵜本 林之助さん
将来のある子どもの命を守ることは地域の未来に関わる大きな問題です。
最近では、交通安全に加え、防犯面での指導を行うといった取り組みに力を入れています。

小学校の入学前後 体験重視の指導に力

「信号がぴっかんぴっかんし始めたら、みんなどうする?」。広警察署交通課の宇佐美方啓さん(52)が問い掛けると、「いったん止まるー」「急いで渡るー」と園児たちが大きな声で答えます。
呉市広にある横路保育所。1月中旬、小学校入学を間近に控えた年長組29人と年中組27人の幼児たちを相手に、広交通安全協会は広署と連携して交通安全教室を開きました。「どちらも正解。信号が点滅した時、横断歩道をこれから渡ろうと思った人はやめましょう。渡っている途中の人は足早に渡り切ってね」と宇佐美さんは手ぶり身ぶりを交えながら説明。信号機の見方を指導した後は、模擬信号機を使って横断歩道を渡る練習に移りました。「信号が青になったら、車やバイクが来てないか、まず右を向いて確認、次に左を見て、最後にもう一度右を確認。そして手を挙げて渡りましょう」と協会職員がアドバイスしながら、子どもたちは横断歩道を描いたマットの上を歩き渡ります。
広交通安全協会「母の会」のメンバーも参加して、幼児たちに横断歩道の渡り方を指導
ダミー人形を使いトラックの内輪差による事故を再現
交通標語カルタ大会

登下校の安全対策を

子どもの交通事故は、道路の横断中に起こる場合が多く、左折車に巻き込まれる事例が少なくありません。「小学校に進み、登下校が始まる前に安全教育を行うことは極めて有効。ただ言葉で教えるだけでなく、模擬体験を通して安全な横断方法を体で覚えてもらうのが狙い」と嵜本さんは強調します。
協会は広地区の全ての小学校、幼稚園、保育園で、入学前後の子どもたちに対して同様の安全教室を実践し続けています。
そのきっかけは、2009年に小学校に入ったばかりの1年生2人が路線バスにはねられ死傷した事故でした。2人の児童は下校時に路線バスを利用。降車した後、バスの前方を横切ろうとしてはねられたとされます。「古い町並みが残る広地区には、道幅が狭いのに大型車を含む車の交通量の多い通学路がたくさんあります。事件の再発防止のため、早期の交通安全教育の徹底を図ろうという機運が高まりました」と、嵜本さんは振り返ります。
事故以降、協会は幼児や児童を対象にした交通安全教室を倍増。現在、開催数は年間で40回を超えています。模擬信号機を使った指導だけでなく、実際の通学路を歩きながら危険箇所を確認し、安全に歩行する力を養う指導も積極的に行っています。

大型車の死角を確認

バス通学を導入している小学校では、本物のバスを借りて安全指導を実施。児童が運転席に座り、どこが死角になっているのかを自分の目で確認したり、バスを乗り降りする際のマナーを学んだりします。数年前からは広島県トラック協会呉支部や地域の運送会社と連携。広場に設けた模擬交差点にトラックを走らせ、ダミー人形が巻き込まれる実験を行い、内輪差や死角の怖さを学んでいます。

自転車教室やイベントも

協会ではさらに、子どもの交通事故として、道路横断中の事故に次いで多い自転車事故の対策にも力を入れ、小学3年生を対象に自転車教室も開いています。 グラウンドに模擬コースをつくり、自転車を安全に乗る方法や交通ルールを指導しています。「自転車横断帯のない横断歩道を渡る場合は自転車を降り、左右をしっかり確認した後で押して渡る。練習を何度も繰り返すことで基本を身に付けてもらいます」と嵜本さん。自転車に関しては、中学や高校でもマナーアップを図る教室を開き、自転車通学時の事故が減るなど効果を挙げています。
実践的な教室に加え、児童が自ら考えた交通標語によるカルタ大会や交通マナーを学べる人形劇といったイベントも各支部で実施。多彩な活動に取り組んだ結果、広署管内では死傷事故のあった09年の翌年以降、交通事故による小学生の死者はゼロに。小学生が交通事故でけがをした件数をみると、09年は15件、16年は3件になっています。嵜本さんは「PTAと共同で安全指導を行う支部があるなど、協会の活動はどんどん広がっています」。多様な立場の人々が関わり、地域ぐるみで子どもたちを交通事故から守る。そんな環境がますます充実しています。

広交通安全協会

1955年設立。協会員75人が10支部に分かれて、交通安全の向上を目指した多彩な活動を展開。広や郷原などの4支部には「母の会」もあり、主婦を中心とした119人が参加し協会の活動を支援している。

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