子どもの命を守りたい

(6)バイクに追突2人が死亡

交通事故は、被害者だけでなく、加害者の人生をも狂わせる。「交通刑務所」と呼ばれる加古川刑務所(兵庫県加古川市)では、交通事犯の受刑者が全国から集まる。受刑者は何を思い、どのような生活を送っているのか。トラックを運転中、4台のバイクに追突し、2人を死亡させた―。加古川刑務所で、罪と向き合う40歳代の男性に聞いた。(迫佳恵)

バイクに追突 2人が死亡…
加古川刑務所(兵庫県) 受刑者の思い

加古川刑務所 加古川刑務所 刑期10年未満の懲役受刑者、交通事犯受刑者、女子受刑者を収容している。定員1281人。交通事犯者のみを収容する「交通区」があるのが特徴で、定員120人に対して、現在は約40人がいる。
受刑者の生活や更生方法について語る三野さん

「甘さ」の積み重ねが招いた事故 被害者のことを考え続ける日々

ぶつかった瞬間の光景、衝撃は忘れられません。ふとしたときにぱっと浮かび、震えが止まらなくなります。
仕事で激務が続き、深夜にトラックを運転中、寝てしまっていた。完全に意識が無くなっていたのです。ガシャッという音と衝撃で目が覚めると、ライトが交錯する中、バイクがバラバラに散らばり、人が倒れている。やってしまったというより、何が何だか分からない。
トラックから出ても状況は分からないまま。バンパーの間に挟まっている人に気付き、助けようとしたけど無理でした。事故状況は分からないまま、人の命を奪ってしまったということだけが頭に入り、何も考えられない。その後は覚えていません。震えて倒れかけている私を、抱えるようにして警察官が連れて行ったと聞いています。

遺族には会えず

居眠り運転でバイク4台に追突し、高校生2人が亡くなり、ほかにもけがを負わせてしまいました。自動車運転過失致死傷罪で受刑生活を送っています。遺族や被害者の方に謝罪しようとしても、会ってはもらえません。私の家族にもただただ申し訳ない。妻は「償いは二人でやっていこう」と言ってくれ、逃げちゃいけないと思いました。
受刑生活は、刑務所イコール犯罪者というイメージで、不安だらけでした。交通事犯者は、他の刑事事件の犯罪者よりも悪質ではない。更生ではなく、刑務所で責任を果たすものだと思っていました。でも、それは違うと気付きました。私には、交通事故を起こした原因があります。「寝てしまった」ではなく「居眠り運転」という法律に違反してしまった。駄目なことだと分かった上で、犯してしまった。殺人も窃盗も交通事故も同じ罪、犯罪に大きいも小さいもない、全て自分のせいで更生が必要なんだと、考えが変わりました。
1度だけ遺族から手紙をもらいました。「息子を返してください」。被害者のことを考え続け、絶対に忘れることはありません。毎日必ず、手を合わせます。亡くなった方の名前を口に出して、そのご家族がどのような生活を送っているか考えています。

心の底から謝罪

どうすれば罪を償えるのか。亡くなった人、家族はもちろん、私の家族、職場の仲間も被害者なんです。その人たちの思いを聞いて、自分の犯した罪の重大さをしっかり考え、心の底から謝罪をしていくつもりです。
これまでは、人を傷つける事故を起こしたことはなかった。でも、シートベルトをしないなど交通違反に大小を付け、「たかが、これくらい」と違反を軽視している部分はありました。その甘さの積み重ねが、事故につながったのだと思います。
今まで無事故無違反の人でも、明日はわが身かもしれません。みんなが考える以上のちょっとしたことで、交通事故は誰にでも起こるのです。車も自転車も運転する人は、リスクと隣り合わせにいることを認識しなければなりません。小さな油断が人生を変えてしまうのです。

交通違反 普段の考え方が反映

加古川刑務所教育専門官 三野克人さん
受刑者に対する更生方法について、加古川刑務所の教育専門官三野克人さん(52)に聞いた。
受刑者には勤労作業のほか、週に1回、改善指導を行います。交通安全指導では、5、6人の受刑者が「法律はなぜ存在するのか」など一つのテーマに対して意見を出し合います。ほかにも「飲酒運転アルコール依存回復プログラム」や「被害者の視点を取り入れた教育」などで、自分を冷静に観察し、反省の念を深めます。
犯罪や交通違反をしてもいいと至った考えの原因や経緯をしっかり考えさせることに重きを置いています。交通違反は、普段の考え方が反映されて犯してしまう。事故は偶然ではないのです。毎日の積み重ねの中で、考え方や行動のパターンが分かれば再犯防止につながります。
受刑者の中には、職や住む所を失ったり、家族がバラバラになったりすることもあります。償いは、同じ失敗をしないことを前提に、社会に出て一生懸命生きていくことだと思います。交通事故に対して「自分は大丈夫」はとても危険な考え方です。「もしかしたら」という想像力を働かせ、事故を防いでほしい。

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